2016年4月25日月曜日

疾病利得」にも対応できる治療者を目指して!


有名なフロイト博士やユング博士と並ぶ精神医学・心理学界の巨人の1人、アルフレッド・アドラー博士は以下のようにコメントを述べています。

『敗北を避けるために、時に人は自ら病気になる。
「病気でなければできたのに・・・・」
そう言い訳して安全地帯へ逃げ込み、ラクをするのだ。』

さらに、「人は人生の敗北を避けるために、あらゆるものを利用する」とも述べています。

これを心理学では「疾病利得」といいます。

病気で苦しんでいるのになんてことを言うんだ!そんな話は聞きたくもない!と憤慨する人がいるかもしれません。特に保険診療ではなく、自分のお金と時間を使ってくる自由診療の患者さんにとっては、あり得ないテーマだと思われがちです。しかし、一般的に心理的要因が影響を及ぼすことが知られている「うつ病」、「パニック障害」、「機能性胃腸症」以外にも様々な慢性症状の背後には「疾病利得」が関係していることがあります。

当の患者さん自身は、そのようなことは意識する由もなく、病気を治すことに一生懸命で、「病気さえ治れば・・・ができる」という思いの人がほとんどです。「その病気には「疾病利得」が関係しているかもしれません・・・。」などと治療者にいわれたりすると、信頼関係が悪くなることが予測されます。なぜならば、「疾病利得」に関する一般的な印象が、「ずるい」、「甘えている」などのネガティブな要素を含んでいるからです。

この「疾病利得」が関係する症状で厄介なのは、本人が偽っているわけでもなく、実際に身体に障害を引き起こしているというところです。「疾病利得」が関係していなければ治る症状も、この「疾病利得」が背後にあるから症状がぶり返してしまうのです。この「疾病利得」は、緊急事態でない症状も多々ありますが、時には命さえも脅かす症状を引き起こしてしまうのです。

「疾病利得」が関係する慢性症状の傾向として、ある程度の通院期間の間に共通する傾向が見えてきます。


  • 肉体的な原因や治らない医学的な理由(身体の異常)には興味を示し、本質的な心理的な原因や理由(心の関係性)には興味を示さない傾向。
  • 複数の症状を抱えて、改善している症状があるにも関わらず、改善されていな症状に注意を払う傾向。
  • しばらく通院されて改善されてきた徴候が増えてきたときに症状がぶり返す傾向。


「疾病利得」が単にいいとか悪いとではなく、その背後にはそれなりの意味や「成長の種」が隠されているのだと私は思います。また、人間であれば、多かれ少なかれ誰もが無意識的に経験している心身相関のプロセスだと思います。

「疾病利得」を客観的に判断できる治療者はごく僅かかもしれません。また、「疾病利得」の背後にある潜在的な感情や信念に関してアプローチできる治療者もごく少数でしょう。PCRTの治療者の場合、熟練してくると、「疾病利得」の関係性が見えてくるようになり、患者にそのことを知ってもらうべきか否かに悩まされることもあるかもしれません。

PCRTでは「無意識」という慢性症状の本質を対象に検査をしているため、「疾病利得」をある程度の客観性をもって判断できる検査手法があります。その検査をするか否かは、術者の判断と患者さんの同意によります。この検査をする前提条件として、治療者と患者との強い信頼関係、それに加えて、患者自身がそのことを認識し、その「疾病利得」サイクルから抜け出すことで、将来的にそれを超える利益を得られるということが求められます。

その利益とは、表面的な利益、すなわち頭だけで求めている利益ではうまくいきません。意識的にも無意識的にも心の底から求めているということが必須条件になります。つまり、「疾病利得」とは症状や病気を繰り返す負のサイクルパターンの中で、何か得られるものが潜在的にあるということです。よって、そのパターンから抜け出すためには、負のパターンにとどまる以上に得られる利益が必要になってくるということです。

「疾病利得」に対する患者さんへのアプローチは、治療者にとっても、患者との信頼関係を無くすかもしれないというリスクを伴うものです。この分野へのアプローチを試みる場合、ある程度のPCRTの熟練と経験が必要です。単に、患者さんにそのような傾向があるからと言って、すぐにアプローチできるようなテーマではありません。

上記のような情報のお膳立てができていて、しかも、患者さんがそのパターンから心の底から抜け出したいという意向がある場合に限って、PCRTではコーチング手法を織り交ぜながら患者さんをサポートすることができます。

PCRTという治療法は、本質的なアプローチを行うために、熟練すればするほど、無意識が引き起こす症状や病気につながる生体反応や行動パターンが見えてきます。見えるからと言って、すぐにアプローチできるとは限りません。負のサイクルから抜け出す準備と条件が患者に満たされているということが前提として必要になるということです。

「疾病利得」という厄介な問題に触れなければ、悩む必要もないかもしれません。しかしながら、本質を見ようとする治療者であれば、避けて通れない課題だと思いますし、「疾病利得」へのアプローチに挑戦する価値は大いにあると思います。

全ては患者が選択する事なのですが、単に心の問題として切り離すのではなく、患者に寄り添いながら、負のサイクルから抜け出す選択肢を提供できる治療者であるのかが重要な課題だと思います。自然治癒力の関係する慢性症状を対象とする治療者にとって、心と身体の関係性を検査し、治療できる知識と技量の研究は生涯のテーマだと私は思います。

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