2017年5月8日月曜日

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

90歳、女性、趣味で能の舞台にでていて、長年お稽古をされているとのこと。今は痛みのために休んでいる。痛みは七週間前に発症。発症から三週間後に病院を受診。腰部脊柱管狭窄症ではないかということで、痛み止めの薬を処方される。当院を利用していただい方から紹介される。20年ほど前には右膝の手術で入院された経験があり、それ以来、カートを引いて歩いているとのこと。バスに乗っていて、突然痛くなり、思い当たる原因はわからないという。痛みは常に有り、軽減するときはない。症状の経過はだんだんと悪くなってきているとのこと。

早く痛みから解放されたいという思いは伝わってくるが、その手助けをさせてもらう施術者にとって、本当の原因はどこにあるのかを患者さんとともに考えていく必要がある。問診でのやり取りの中で、腰部脊柱管狭窄症の診断は、レントゲン検査だけなので、まだ確定している訳ではなく、MRIなどの検査もした方が良いと言われたらしい。患者さんが「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と繰り返し訴えるのが気にかかった。

施術テーブルに横になってもらい、常に痛いと訴える痛みの状態を聞いてみると、今はそんなに痛くないという。最も痛い状態が10としたら4ぐらいだという。左股関節の可動域を検査しながら、どんな時に痛みが強くなるのですかと痛みの状態を具体的に尋ねてみると、「・・・アイタタタタ・・・」と急に痛みが強くなった様子。この痛みは通常の性質ではないと感じ、椅子に座ってもらうことを提案。患者さんは我慢できるといわれたが施術テーブルを起こして、椅子に座ってもらった。「痛みが強くなる時は、いつもこんな感じですか・・・」と尋ねると、「そうです・・・」という。では、「どんなときに痛みが軽減するのですか?」と尋ねると、「何か楽しいことをしているときには痛みを忘れている」という。「例えば・・・・のときです。」、患者さんが話をされている途中から「あら、いま痛くなくなった」という。

痛くなくなるときのことを患者さんがしばらく話され、私が「この痛みは患部(痛みの部位)から痛み信号がでるのではなく、脳で痛みを感じている可能性がありますね。もしも、身体の構造的な異常が原因であれば、痛くない時を意識しただけでは痛みが軽減しないですよね・・・」と話すと、患者さんも半信半疑ながらもそのことを理解された様子。それでは、「もう一度、痛みの部位を意識して痛くなってもらえますか?・・・」と痛みの根源を探るためにあえて質問した。すると、「え〜、ちょっと難しいですね(笑)・・・」と言いながらも、「・・・あ、また、痛くなった・・・」と顔をしかめた。

「身体を動かしていないのに痛みがでたり、軽減したりするのは、身体の構造の問題ではないということをある程度理解していただいたでしょうか・・・」と尋ねると、患者さんはしきりに「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と心配そうにいう。病院の診断に執われているのだと感じ、「高齢であれば、だんだんと骨が変形して、病院で脊柱管狭窄症と診断される人も多いのですが、その骨の変形と痛みとが無関係であることがたくさんの研究で分かっているから心配ないですよ・・」などと、できるだけわかりやすく説明すると、ようやく納得された様子だった。

このようなストーリーを聞くと、意識を変えれば治るのではないかと思われがちだが、そんな単純なことではない。いわゆる「暗示」も関係している可能性もある訳だが「痛いの痛いの飛んでいけ!」とおまじないのように意識を変えるだけでこの痛みが消える訳ではない。この痛みの発生の仕方から明らかなのは、痛みを引き起こすプログラム(神経回路)が脳に記憶されていて、何らかの条件付けで痛み信号が発生するということである。そして、この痛みを引き起こすプログラムには、無意識的な心理面が条件付けされているということ。このようなプログラムをPCRTでは「誤作動記憶」として施術を行う。

どのような条件付けが背後にあるのかを検査するためには、患者さんがその意図を理解し信頼してくださるかが大きなカギとなるだろう。まずは、通常の医療とは異なる「脳の記憶を上書きする治療法」の考え方を理解してもらうことが必要である。患者さんにどの程度理解してもらえるかは定かではないが、今回初めての施術で、痛みの原因の一つが、脳の「記憶」によって引き出されているということは理解していただいた様子だった。


(次号に続く)

2017年5月2日火曜日

不易流行の治療法(PCRT)

不易流行の治療法(PCRT)

昔から「不易流行」という言葉は、企業を守っていく上で大切にされていた言葉です。ある書籍によると100年以上続く老舗企業の割合は、3.5%だそうで、企業を100年間継続していくというのは難しいようです。そのような100年存続している老舗企業の563%が、創業時から主力の事業を変更し商品・サービスに関しては70%以上が変更しています。変化している企業が存続の確率が高いわけです。

要するに「生き残り続けた企業」は、「変わり続けた企業」というわけです。これは進化論で有名なダーウィンが言い残したとされる「強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでもない。変化に対応した者が生き残ったのだ」ということにも通じるようです。では生き残った企業は何を変えたのでしょうか?商品やサービス、組織運営の仕方や戦略・戦術などでしょう。

そして、変えなかったものは何だったのでしょうか?それは企業の社是や企業理念、企業のあり方などでしょう。つまり、「何のために商売を始めたのか?」という大切なところは変えなかったということです。これは企業の規模などは関係なく、我々のような小さな治療院でもいえることです。「あなたは何のために治療院を始めたのですか?」という問いにしっかりとした答えが必要です。

PCRT研究は、「同じような病気でも治る人がいる一方で、なぜ、治らない人がいるのか」という本質を追求するというところから始まり、発足当初からの開催の趣旨は一貫しております。そして、その本質的な疑問を解決するために、現在では「心身相関と生体エネルギーブロック(EB)に焦点をあて、その関連学習記憶パターンによる誤作動記憶を調整する療法」として、研究を積み重ね続けております。

研究会の参加者の中から「毎年出席するたびに、手法が変わっている」という感想をいただくことがあります。このコメントには「方法論は変わらない」という前提(思い込み)が含まれています。確かにPCRTの方法論は研究が進むにつれて、毎年進化しています。しかしながら、本質は変わることなく、そこから派生した枝葉の方法論や伝え方が変化しているのです。

長く継続してその本質を理解していただいている先生は、臨床現場で患者さんにあわせて臨機応変に活用していただいているようです。しかしながら、単に方法論だけを学ぼうとしても、本質を踏まえた応用ができないために活用しきれないという話もお聞きしています。

臨床現場では「応用」の連続です。鍼灸の経絡の流れや神経学の神経学的経路を教科書通りに理解したからと言っても、それがそのまま臨床現場で活用できるわけではありません。その基礎知識をどのように活かすことができるかの応用力や臨床力が必要になります。

PCRTではそのような基礎力を踏まえた上での応用力を学びます。単に方法論を学ぶのではなく、自然療法の本質(不易)とそれを臨床現場で応用(流行)する力を取得していただければ、自然治癒力を引き出すことを目的とする治療者にとって、生涯の自信になると確信しております。

それでは次回の研究会でお会いできるのを楽しみにしております。



2017年4月28日金曜日

痙性斜頸(ジストニア)の改善 シリーズ2

痙性斜頸(ジストニア)の改善 シリーズ2

【2回目の施術】3日後

問診:
術者:その後どうでしたか?
患者:治療後は良かったのですが、1日あいて、今日は昨日とは違う感じがします。以前からあったのですが、電車やエレベーターで人目が気になって症状がでるようです。
術者:わかりました。その時の状況も検査してみましょう。

目安検査:陽性反応
筋肉・関節(自動運動)=前回の陽性反応は全て陰性
EB(エネルギーブロック)部位=前回の右胸鎖乳突筋の筋腹を摘む陽性反応も陰性
症状イメージ=マンドリンを弾くイメージ=陰性、下を向くイメージ=陰性、字を書くイメージ=陰性、夜締め付けられたイメージ=陰性、人前でのイメージ=陽性

ハード面調整(肉体内関係の誤作動記憶調整):
l   AM(アクティベータ・メソッド)とPCRT(心身条件反射療法)でハード面調整を完了。
l   ハード面調整完了後、人前での症状イメージ以外の目安検査は消失。

ソフト面調整(肉体内関係の誤作動記憶調整):

術者:前回の陽性反応はほとんど消失していますので、人前での症状イメージから検査を進めてみましょう。
l   PCRT誤作動記憶検査チャートを使いPRT(生体反応検査法)を行う。
l   大脳辺縁系→信念チャート→虚栄心でPRT陽性反応
術者:虚栄心というキーワードも関係しているようですが、何か心当たりはありますか?虚栄心というのは、周りの人から〇〇のように思われたいとか、だれにでもありそうな心の一つですが・・・
患者:・・・そうですね。それだったらマンドリンに関係しているかもしれませんね・・・
術者:それでは、「虚栄心」という言葉につなげてそのことを心の中で思ってもいえますか?
患者:はい。(イメージ)
術者:今の思っている内容で身体が反応していますので、そのイメージで調整させてもらいますね。
PCRT呼吸振動法を施す。「虚栄心」のフィードバック検査で陰性反応。
術者:「虚栄心」に関する誤作動記憶は調整できましたので、再度、人前で気になる場面を想像していただけますか?
患者:はい。
術者:人前で気になるイメージで反応が示されていますので、また、チャートを使って検査させてもらいますね。
患者:はい。
l   PCRT誤作動記憶検査チャートを使いPRT(生体反応検査法)を行う。
l   大脳辺縁系→信念チャート→「利己心」でPRT陽性反応
術者:こんどは、「利己心」というキーワードで反応が示されています。「利己心」というのは誰にでもある心ですが、何か避けたいことから自分を守ろうとする心に関係するのですが、何か思い当たることはありますか?
患者:・・・今、思いついたのはマンションの人ですね。偶然ですけれど同じマンションの住人の方が、マンドリンの教室にいて、一緒に習っていたのですよ。
術者:あ〜そですか?その方は上手でした。
患者:そうですね。私よりも以前からその教室で習っていたので上手でしたね。多分、私がやめたことをその人にどのように思われているのかを私は気にしていると思います。
患者が話しているあいだにPRT(生体反応検査法)を行う。
術者:なるほど。今、話されている時に検査をしてみると陽性反応が示されて、「さらに」の検査でもう少し明確にした方が良さどうですが、自分を守ろうとしている何かにつなげられそうですか?
患者:その方が教室にいなかったらもっと早く辞めていたと思うんですが、同じ住人なので辞めづらかったというのはありますね。
術者:何が辞めづらくさせていたのかが明確になるといいかもしれませんね。・・・すみません。ちょっと待っていただけますか?(術者は他の患者さんへ移動)後で検査させてもらいますので、そのことにについて考えておいてください・・
患者:はい。
術者:・・・五分後・・・どうですか?
患者:しばらく冷静に考えてみると、自分の体裁を守りたかったのだと思います。
l   PCRT誤作動記憶検査チャートを使いPRT(生体反応検査法)を行う。
術者:なるほど。今話されている間に検査をしてみと反応していますので、そのことを思ってもらったままで調整させてもらいます。
l   PCRT呼吸振動法を施す。「利己心」のフィードバック検査で陰性反応。
術者:「利己心」に関する誤作動記憶は調整できましたので、再度、人前で症状が感じるイメージをしていただけますか?
患者:はい。
術者:いいですね。そのイメージでも陽性反応が示されていませんので、今日の施術はこれで完了させていただきます。
l   ソフト面調整法の施術完了

遠方からの来院で、その日は近隣のホテルに宿泊し次の日に施術を予約されていた。翌朝早く来院されたが、施設にいるお母様が急に意識がなくなったとの連絡があり、すぐに帰省しなくてはならないとのこと。受付で話をされてもジストニアの症状が再発することもなく、症状はだいぶん改善された様子。「とてもよくなって大変感謝しています。」と、その日の施術は一旦キャンセルして帰られた。

考察:
一年半前位より発症したジストニアが2回の施術で随分改善した。脳の記憶は複雑なので、これで完治したとは判断し難いが、ご本人は症状改善に満足されていた。身内の事情で継続通院できなかったが、また、何か問題があれば来院してくださるだろう。本症例ではジストニア症状に関係する誤作動記憶がうまく整理できように感じる。完治であろうがなかろうが、患者自身がこのような治療法で「自分の身体は治るのだ!」ということ信じてくれることだろう。